老害×クロスレビュー老害たちによるボードゲームクロスレビューが連載開始!?ゲームモンスターたちが話題の2作品を独自の視点で語り尽くす。この人たち、やっぱどうかしてるって!

「いいゲーム」とか「面白かった」はもううんざり!
もっと濃いレビューが読みたい!

先日、久しぶりに再会した古参ゲーマーと話す機会に恵まれた。 まわりに最近老害呼ばわりされているんだと自笑を浮かべた彼は、こちらが聞いてもいないのに最近遊んだ新作ゲームについて、まくしたてるように語り始めた。
早口すぎてところどころ何を言ってるのかわからなかったが、知見に基づくピンポイントすぎる賞賛と、毒をたっぷり含ませた底意地の悪いジョークが、ない交ぜになったそれは、まさに批評と呼ぶにふさわしいものだった。
偏ったボードゲームの批評をもっと聞きたい。そう思い立ち、ウェブを見渡して見ても求めているものがなかなか見つからない。

じゃ、自分で作るかと、老害と呼ばれがちな人達にレビューをお願いして、クロスレビュー風にまとめてみることにした。
上がってきた原稿はどれも個性に溢れており、期待どおりの内容なのだが、みなさん書きたいことが多すぎて、ことごとく文字数がオーバーしてるって!
マニアから奇人まで、クセのある方々のゲームレビューをまとめて掲載する。前記の理由により人によっては長文すぎて読みにくい仕様となっておりますのでご了承を。でも、これこそが私が読みたかったレビューだ!


ロレンツォ・イル・マニーフィコ

ロレンツォ・イル・マニーフィコ

原題:Lorenzo il Magnifico / デザイナー:Virginio Gigli, Flaminia Brasini, Simone Luciani / メーカー:Cranio Freations,
発売年:2016年 / 価格 7,465円
テンデイズゲームズから日本語版が発売中。

プレイ人数:2人~4人
プレイ時間:60分~120分
対象年齢:12歳~

ダニエル・タスチーニとのタッグで「ツォルキン:マヤ神聖暦」(2012年)、「マルコ・ポーロの旅路」(2015年)とヒット作を手がけた新鋭作家・シモーヌ・ルッチアーニが、「ゴーストフォーセール」(2007年)、「エジツィア」(2009年)などの名作を生んだデザイナー集団・アッキトッカのメンバーであるF.ブラシーニとV.ギグリと共に制作したワーカー配置&拡大再生産ゲーム。ダイス目の揺らぎから生まれる駆け引きが特徴。


北のかませ犬 鹿

みなさんは「ロレンツォ・イル・マニーフィコ」訳すると〝偉大なるロレンツォ〟と呼ばれる人物を知っているだろうか。かの有名なメディチ家の最盛期の当主である彼を私は知らなかった。ただこの1週間ほどの間で私は彼の名前を何度口にしたことだろう。なぜなら彼の名を冠したボードゲームの日本語版が発売されたからだ。ロレンツォ、ロレンツォ、言い続けた結果、ようやく死んだ目をしたおじさんが描かれた箱を開ける機会に恵まれた。

ゲームはワーカープレイスメント。プレイヤーは貴族の族長となり3時代(1時代2ラウンドで計6ラウンド)をまたいで優秀な一族を作るために奮闘する。
各プレイヤーには個人ボードと家族駒と呼ばれる赤、青、緑のコマと、無色のコマ(影響力0)、計4つのコマを与えられる。ラウンドの最初にスタートプレイヤーが振った3色のダイスの目がその家族コマの影響力となる。これがこのゲームのキモといえるだろう。 それは全プレイヤー共通。尚、「召使い」を使い、出目をプラスすることが可能だ。

ワーカープレイスメントの常、一部の収穫・生産エリア、市場エリアは最初の一人しか入ることができない。塔エリアの各塔も最初の一人はノーコストで入れるが、すでに他人のいる塔に入ろうとすれば3コインの費用が必要になる。

時代はルネサンス。信仰心も大事な要素となっていて、信仰が時代の終りごとに設定された目標値を捧げなければ重い十字架を背負うことに。このペナルティが重い。カードを取るときの勢力を大幅に削られたり、資源を勝利点に変換できなくなったりしてしまう。く、苦しい。

痛みと苦しみに耐え忍ぶも敗北。

本作に携わる3名のデザイナーのうち、2名が手がけた「グランドオーストリアホテル」に似ているが、要素が整理されているため、最初から何をすればいいのかが、こちらのほうが断然わかりやすい。システムが整っており見通しがいいため、コンボも狙いやすく、うまく決まった時の爽快感は病みつきになる。メディチ家の再興と自分の再戦を重ね合わせた。

ロレンツォ・イル・マニーフィコ 北のかませ犬 鹿

プロフィール
札幌在住ボードゲーム歴2年目の新人。ポジティブゲーマー。好きなゲームは「ランカスター」「トラヤヌス」「ポンジスキーム」。

レビュアー紹介
ピュアなハートの道産子女子。老害たちを引き立てる〝かませ犬〟として無理を承知でレビューをオファー。で、まさかの快諾。なにかにつけて「いいゲーム」とか「面白い」とか書いちゃう、ありがちなレビューを期待していたのだが、どこかゆがんだ愛の溢れるテキストが届いたので最初の趣旨とは違うけど掲載。ゲーム歴2年目の何でもかんでも遊びたいざかり。

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狂気のアナログゲーム研究者 いたる

「ツォルキン」コンビの片割れとアッキトッカ残党。某ボードゲームマンガに好きなデザイナーとしてシモーネ・ルチアーニの名が出てきたときは、世代の移り変わりを実感したものだ。ダイスワーカープレイスメントもいつの間にかすっかり定着した感があるが、運のばらつきと手番ごとのダウンタイムを解決しつつランダマイザとして取り入れるなら、プレイヤー全員のワーカー価値を統一して決定するようになるのは必然で、フォロワーも出てくるんじゃないか。そこ以外のメカニクスはオーソドックスで新味はなく、テーマは地味で、世界設定とシステムとの紐帯はゆるゆるだ(ユーロはそういうものなのかも知れないが)。だが引き出される感想が「無難」とかけ離れた上質なものなのは、これもまた「洗練」のなせる業なのだろう。この洗練は「Scythe」のグローバリゼーション的洗練とは別種の、EU工芸品が身に帯びるものであり、年々衰退の途をたどっている、ように見える。できれば生き残って欲しいのは当然だが、願いを託す先が盟主ドイツではなく、フランスやイタリアなのが諸行無常だ。

ロレンツォ・イル・マニーフィコ
狂気のアナログゲーム研究者 いたる

プロフィール
最近面白かったゲーム
1 文絵のために カナイセイジはやはり天才だと再認識させられた。
2 「Dog Eat Dog」プレイしたのは去年なのだけど、最近よくやってるストーリーゲームの代表として。
3 「Ultimate Chicken Horse」これもプレイは結構前なのだけど、最近よくやってるローカルマルチビデオゲームの代表として。

レビュアー紹介
ゲームに関する海外文献を見境無く読みまくり、読書会などを行うゲーム研究者。ユーロ圏のみならず、世界中のゲームに関する異様なほどのデータを所有。豊富な知識をベースにした的確で鋭いコメントの切れ味は抜群。ただし、結構遊んでいるはずの日本産同人ゲームに関してはなぜか口をつぐみがち。

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元ノットフォーミー シミーズ

ロレンツォ・デ・メディチは国内外を問わず大変有名な人物である。相応の評価だろうが、常々わたしは、有名過ぎはしないかと疑っている。彼がパトロンであったために自画像がかなり制作され、現代に残った、つまり史料が多いことこそが有名になった最たる理由なのではないか、と。いずれにせよチームイタリアにとっては力が入るテーマであることに違いはなく、勢いのある Cranio Creations と伝説的デザインチーム Acchittocca の組合わせに、2016年エッセン随一の大作かと期待させた。
が・・・。が、しかし。チームイタリアの熱に、隣国オーストリアからピクニック気分で水遣りをしたのがクレメンス・フランツである。いつもの調子で描いたイラストが素っ頓狂。これは構図の問題だろうか。滑稽というほかなく、もはや笑いを取るためにやっているのではなかろうか、と疑われるほどのパッケージである。Cranio Creations はもともと笑いを取るために労を惜しまない集団だから、彼らが指揮した可能性もあるが、とにかく、ロレンツォに温かな小物感が漂うことになった。
内容は、ダイスプレイスメント(ダイスを配置するワーカープレイスメント)だ。ダイスの出目が配置可能マスの制限であり、マスの効果にも影響を与える。ワーカーの強弱が均一ではないことから、手持ちの各ワーカーをどこへ配置するかその配分をも計画する。当然ながら、他プレイヤーの手によって計画は脆くも崩れるわけだから、代替案の用意は必要だ、もしくは、柔軟に対応することになるだろう。ロレンツォでは、さらにダイスの出目を全プレイヤー共通とすることにより、ダイス運を減らした。
個人的には通常のプレイスメントゲームに比べ、一手差が大きいように感じる。一度逃がしたマスはすぐに取られてしまう怖さがある。もともとプレイスメントゲームには取り合いという側面があるけれど、この側面がかなり強調されているように思う。
さらに、2ラウンド1セットのバチカンレビュー(達成しなければマイナス効果)があって、これに備えるにせよ、甘んじて受けるにしても、手番は圧迫される。また、ゲームに登場するカード総数が限られているため、総じて、かなり鋭く、窮屈な雰囲気。ゲームに相対するプレイヤーは、ある種マニアックな卑屈さを持ってプレイせざるを得ず、そこに異様な小物感が漂う。まるでロレンツォの肖像が憑いたかのよう。

ロレンツォ・イル・マニーフィコ 元ノットフォーミー シミーズ

プロフィール
ルールを読んでノットフォーミー。SdJ予想師。ゲームの質を研究するというよりは、マジョリティの追求こそが至上命題。しかし昨今の世論についていけない。そこでアメリカンドラゴンやメリケンフェニックスといった神獣を召喚したが、今のところ成果はあがっていない。
ここ数年で好みのゲームは、パールゲームスの「デウス」と「ブリュッセル1893」、小箱だと「アブルクセン」。

レビュアー紹介
遊んでいないゲームのルールだけ読んでノットフォーミー、ノットフォーミーと叫んでいたら、世間に結構本気でキレられた人。真意が伝わりにくい部分があるにせよ、本質を突く独自の解釈には支持者も多い。年間300以上のルールを読みあさり、ああだこうだ言うのが生きがい。彼の発言をどこまで信用していいのかはイマイチよくわからないが「おまえの存在がノットフォーミー!」 という言われようは流石にかわいそすぎる気がします。

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捏造ボードゲーム考古学者 沢田大樹

本当は「グランド・オーストリア・ホテル」に言及しないといけないんですが、積んだままのゲームがいかにかさばるかという話をしても仕方ないので、お詫びの上で(しかも「マルコポーロ」もやってない)他の過去作を振り返ることにしますと、ドライに割り切った「ツォルキン」と、最もブルータルなワーカープレースメント物のひとつである「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の作者が、2017年の今になって敢えて出すワーカープレースメントがこれ、と考えると、ちょっとしたメッセージ性を感じます。何しろ出て来るカードと取得のためのワーカーコストと今回出せるワーカーパワーというのがだいたいダイスで決まります、完全早乗りだから欲しいものから取ってってね、という乱暴な割り切り。真面目にリスクとリターンを散らして他のプレイヤーと重要なポイントを奪い合う方向で行くか、緑の6に一点賭けして後はダイスの神に祈るのみか、という何だかカタンみたいな意思決定。いや確かにな、わしらも昔は「エジツィア」みたく組み合わせの強弱を云々させるようなお硬いゲームを作ったこともあったが、ワーカープレースメントの開発に皆が血道を挙げていたのももう十年前の話だ、今はこうして、他所のお客さんも賽子の目に一喜一憂してくれる、それも幸せというものだろう。これは確かに老化ですけど、ポン刀持って眼を血走らせた若い書生が年食って更にタチ悪くなって部屋を彷徨いております、みたいなよくある閉じたバッドエンドを考えれば、中々良い塩梅に外に開けた所に落ち着いたんじゃないかと思うのです。

ロレンツォ・イル・マニーフィコ
捏造ボードゲーム考古学者 沢田大樹

プロフィール
我ら99%、ただし残り1%の手先。共謀罪絡みの報道を聞きながら、どっか手頃な国の永住権が半額セールになってたりしないかな、と通販サイトを漁っております。
ここ1-2年では「ポンジスキーム」(2015)と「四人の容疑者」(2016)の印象が強く残ってます。もちろん「フードチェーンマグネイト」(2015)も好きですが、たぶん他の人のラヴ具合に追いつけてません。
近況:ご多分に漏れずスイッチゼルダを遊んでおりました。酔わない3Dって素晴らしい。
あと「チップチューンのすべて」(田中治久、誠文堂新光社)は名著なのでみなさん買って読みましょう。

レビュアー紹介
「ゴーストップ」「スクエアオンセール」などのデザイナーでもあり、ニューゲームズオーダーの中の人として様々なゲームの日本語版制作を手がける。「重要タイトルで振り返る捏造ドイツボードゲーム20年史」はゲーマー必読の書。ドイツゲームに関する講演なども行っている。最近、東京ドイツゲーム賞で、「六次化農村」に独断で賞を与えて商品化したことでも話題に。日本ボードゲーム界の良心。

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ゲームは見た目が100パーセント 田村

みなさんいかがですか、本作のジャケット。
Cranio Creationらしい意識のありそうなキメキメデザインの中央に鎮座する、手数だけは気合の入った、それでいて根本的に抜け感のありすぎる親父の肖像。

みておわかりの通り、クレメンス・フランツです。
アグリコラでデビューした時から、特に高くないクオリティと妙に主張する絵柄で印象にだけは残る彼が、なぜ引っ張りだこなのか、訝しんだ時期もありました。
で、考えたんですよ。手が早いとかギャラが安いとか、知り得ない強みがあるのかもしれないし、ウヴェ・ローゼンベルクの収穫三部作なんかはコネだったかもしれませんが、今となっては、全世界の現代的ボードゲームプレイヤーの頭の中に「この絵柄 = ある程度やる気がある中~重量級」っていう印象が刷り込まれてて、この人が絵を手がけることがゲームの性格に対する印象を左右するんじゃないか、それをメーカーやデザイナーもわかってての起用なんじゃないかって。
こんなメタ評価があるイラストレーター、他にあんまりいないでしょう。強い。
で、またこの本作がその傾向を更に強化するような出来で、良かれ悪しかれこの世にはばかりぶりは、しばらく止まるところを知らなさそうっていう。

ロレンツォ・イル・マニーフィコ
ゲームは見た目が100パーセント 田村

プロフィール
最近印象的だったゲームは『ジャケ写ハグル』と『Cuphead』。
ウォーハンマーをはじめました。

レビュアー紹介
当サイトではおなじみのイラストコジキ。見てくれがよければ中身は二の次のアートワーク至上主義者。しかしゲームについてブツクサ語っていたのも今は昔。最近はめっきりゲーム熱は冷め気味。と言いつつも、一般社会でまったく役に立たない事柄に関する異様なほどの知識は健在。

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マスクドSG

システム的にはかなり直球なワーカープレイスメントだが、ワーカーの強さがラウンド毎にダイスで決まることで展開の揺らぎを作っている。
この手法は、ダイスの影響部分は違えど「OLE-KAJI 船を出せ!建物を建てろ!俺はカジノに行ってくる!」にとても近い。リソースをつぎ込む事でダイス目の渋さをコントロールできるところなどはそのまんまだ。
ワーカープレイスメント+ダイスでいうと、真っ先に思い浮かぶのは「榎コロ」だが、ダイスのタイミングや影響方向が別ベクトルにあるので似て非なるものと言える。「榎コロ」は拡張を入れれば人物カードが追加されるので、エッセンス的にはより近いものになるかもしれないという事は追記しておく。

そうそう、人物カードといえば、多彩なカードがあるという点で、名作「サクサク三国志」と似ているという事は触れておかねばなるまい。味のある人物イラストは、洋の東西のテイストの違いはあれど甲乙つけがたいレベル。だが、個人的にはやはり色鉛筆によるやさしいタッチが圧倒的な手作り感と昭和テイストを醸し出す「サクサク三国志」に分があると言わざるを得ない。
まあこのように、このゲームもすでに日本の同人ゲームで使用されたシステムの寄せ集め。いいとこ取りと言っても過言ではない。
残念なのはテーマだ。なんかもっとキャッチーなテーマであればよかった。たとえばカワイイ猫ちゃんが主人公であれば確実に商品としての価値が上がっていた。海外のことはわからないが、ゲームマーケットだと間違いなく売れる。即完売なはずだ。私は買わないけれど。

ロレンツォ・イル・マニーフィコ
マスクドSG

プロフィール
謎の国産同人仮面。袋ゲーを詰め込んだパンドラの箱が増えすぎて、押し入れという名の天岩戸から溢れ出そうとしている。その瘴気に当てられたのか、はたまた脳の経年劣化なのか、最近は特殊能力などの把握が覚束なくなり、ますますエンジョイ勢に近づきつつある日々。インスト5分以内のゲームをお待ちしております。
好きな漫画家は笠辺哲。自らの欲望に正直なキャラしか出てこない独自の笠辺ワールドは唯一無二の魅力。この世界の住人みたいになるのが人生の目標っす。

レビュアー紹介
ゴミの中に宝がある! の勝新イズムで同人ゲームと呼ばれるものならなんでもかんでも遊んでみる性分。遊ぶ気がまったくおきないプロト版から「惨劇ルーパー」を発掘するなど目利きとしての功績は大きいはず、なのだが、同人ゲームファンやデザイナーから軒並み距離を置かれているのは驚異的な人徳のなさと、ブローカー気質が原因か。ゲームは粗ければ粗いほどいいが信条。