第1回 おもちゃライター DJ・モチヅキ
プロフィール
フリーライター。
ゲームはじめトイホビー全般をウロウロ遊ぶ。
パーティゲームをつい買ってしまうが、
多人数を集める準備にいつも失敗する。
「どんなパンツを選ぶのか。それを当てるゲームです」
――変態ですね。
「ありがとうございます」
「スカートをめくってパンツで神経衰弱をします」
――変態ですね。
「ありがとうございます」
小学生以下無料のイベントのはずだが、ここは4階だ。
キッズコーナーは5階。大丈夫、大丈夫。
迷い込んだとしてもカッパに夢中になって、
パンツには気づかないだろう。
かわいらしいウサギのTRPG本のとなりに、
北の後継者がミサイルを撃つゲームが並んでいるが、
なにも間違っていない。
ここはいつもどおりのゲームマーケットだ。
「5階でスタートダッシュかけようと思って急いで来たのに、
4階のほうが混んでたらしいんだよ」
――A(仮名)さんは5階を攻めたんですか。
「当然だろ! なんか今年は違ったんだよな。
バネストの『(なにかレアなゲームの名前)』なんて
午後になってもフツーに買えたんだぜ」
――海外ゲームよりも国産同人ゲームのほうが人気でしたね。
「そうなんだよ。俺に言わせれば、今日は、
ピュアユーロが同人に負けた日なんだよ」
確かに同人ゲームは人気だったが、Aさんは
果たして、どんな勝利条件を想定していたんだろうか。
「ずっと同じものを出展してるんですけど……」
――毎回、売れ残るんですか。
「そうなんですよ。もう買う可能性がある人には、
行き渡ったのかもしれない」
――いつから出してるんですか。
「5年、いや6年前かな……」
――え、そんな前から。
「20年以上前のTRPG用のシナリオです」
――昔の作品を発掘したんですか。
「いえ、最近作ったものです」
――そうなんですか。
「監督目線の野球ゲームです。1998年からやってます」
――歴史がありますね。
「データは2011年なので、最新です」
――なるほどなるほど。
時代や流行が変わるとか、どうでもいい。
ジャンル別に食い合い、殴り合いをしてるわけじゃない。
誰もが好きなものを好きなだけ売って買って遊べばいい。
それもゲームマーケットなんだろう。
たまたま今年は『惨劇』と『ヴォーパルス』だった。
個人的には『パンツ』と『ネコ』。
閉会後のエレベーター前で、
リュックと手提げ袋いっぱいにゲームを抱えた
Aさんを見つけた。
――買いこんでますね。
「今では手に入りにくいのもあったからな……
後で買えばいいのもあるんだけど、祭りだから」
――あ、結局『パンツ』と『ネコ』も買ってる。
「何見てんだよ。一応だ、一応。ネコは予約してあったし」
――どれもレアものですからね。買えてよかったですね。
「ユーロとこの辺を一緒にすんな! わかってねぇな!
あ、『アンモナイト』は別だな。あれはコッチ側だ」
――アッチとコッチがありますか。そうですか。
重苦しい沈黙の後、エレベーターは止まり、
夕暮れの浅草にゲーマーたちを押し出した。
「ゲーム部屋に寄って帰るわ。お前はもっと遊べよ」
――そうですね。……あの、A(仮)さん、
ひとついいですか。
「ん?」
――今回、『HYKE』と『FABFIB』を買った僕は、
どっち側なんでしょうか?
「……おしゃれパーティ野郎が……!」
Aさんの顔は夕闇に紛れていたけど、
きっと呆れたように笑っていたに違いない。
タクシーに戦利品を積み込むA(仮名)さんに
会釈して、僕は駅へ向かった。
世界一の電波塔がゲーマーの群れを見下ろしていた。
追い越していったタクシーの後部座席で、
Aさんが和訳ルールを手にしたまま、
子どものように眠りこけていた。
最後の3行、タクシーとスカイツリーでDochin POINTをギリギリ獲得。そこで得たわずか50化学が、まさかの8000ハーモニーを生み出した。これぞゲミストリー! モチヅキ氏はあと50化学で博士に昇格する。