第二回ゲストは世界のボードゲーム情報サイト『Table Games in the World』を運営するボードゲームジャーナリスト小野卓也さん。住職の仕事の合間を縫って日々サイトを更新し続けるスーパースターに、例の騒動の話なんかも聞いちゃいました。|ボードゲームスーパースター列伝ゲームスーパースター列伝

Table Games in the World

アークライトにも池田さんにも取材してますから待っててください

――サイトを始めて今年で16年になるんですね。スタート時は小野さんは学生だったんですか?

小野 そうですね。96年にホームーページを初めて、その頃は趣味のページだったんですよ。99年に住職になって。ニュースサイトになったのは05年~06年くらいかな。だから今の形になってからはまだ6、7年なんですね。

――ニュースサイトを始めたきっかけはなんだったんですか?

小野 海外のページを見てて、国内にニュースが入って来てないなって思ってはじめたんです。海外のゲーム賞の話題なんかを喜んで紹介したり。

――"ボードゲームジャーナリスト"を名乗り始めたのはいつ頃からなんですか?

小野 02年にエッセンに行ったんですけど、そのときにプレスパスを申請したんです。自分がどういう立場なのか紹介が必要なんですよね。ちょうど申請用紙にドイツ語でフリージャーナリストって欄があってそこにチェックを入れて入ったんですよね。それが最初。それからはジャーナリストとして幅広く情報を漏らさないように伝えるってことを心掛けてます。

――ニュースはすべて1人で収集してるんですよね。

小野 はてなやグーグルアラートに入れて、記事にできそうなものがあれば記事にします。できるだけ全部のニュースに目を通して。でも最近は読み切れてないですけど。忙しい日はその日の夜中にアップするとか、毎日更新するように心掛けてます。

――その他に毎月、新作をかなりの数遊び続けて。仕事や家庭に影響したりしないですか?

小野 いや、逆にボードゲームで心の余裕ができるっていうか。そういうのがないとお寺で人の悩みを聞いたりできないですよ。

――悩みを打ち明けたり、懺悔しに来る人がいるわけですか。

小野 いやいや。秘密厳守で愚痴を聞くっていうくらいですけど。

――みのもんた的な人生相談。

小野 そうそう。でも助言はしないので、結局、自分で答えを見つけるっていうカウンセリングですね。そういうコミュニケーションがボードゲームやってるおかげで意外とテンポ良く出来るようになったってことはありますね。

――趣味がいいストレス発散というかいい気分転換になると。お坊さんって多趣味な方が多いんですか?

小野 結構、みんなスノボとかテニスとかスポーツをやってる人が多いですね。だから私にとってもボードゲームはストレスのはけ口って意識はないですけど、定期的にやってると安定してるっていうね。お坊さんも最近、精神安定剤飲んでる人がいたりするから。

駒木根 隆介さん

――ところで小野さんのサイトといえば、物議を醸すような記事が話題になりますけど、今回は、ちょっとそのあたりの事件を振り返りつつ、話を聞いていきたいなって思ってたんです。

小野 いいですよ。

――そう思ってたんですが、最近、小野さんが人によっては例の事件の当事者よりも、とりあえず小野さんが悪い! この疑惑のデパート! いかさまゴキブリ!って話になってきてて。

小野 そこまではなってませんよ!

――まあタイムリーな話題ってことで、今回はそのあたりをまず聞いていきたいなと。 簡単にいうとあゆ屋の問題から派生した一連のゴタゴタの件が原因となってるんですよね。(ゴタゴタの詳しいまとめ 参照:部屋とボードゲームと私と酒と泪と男と女)
時系列で説明するとまず、あゆ屋という出版社が作った東方シャドウハンターズってゲームが頒布中止になった記事を小野さんがサイトにアップしたんですよね。その記事に対しても怒ってる読者がいたんですけど、そうこうしてるうちに今度はあゆ屋の騒動では被害者だったはずの『シャドウハンターズ』のデザイナーの池田さんに対して、株式会社アークライトが訴訟を起こした。それも小野さんが記事にしたんですけど、そのあと一向に進展がないし、なんか知ってるのに小野さんが隠してるんじゃないかって、一部の読者の方の怒りを買ってるというね。

小野 ニュースに関してはいつもできるだけ、自分の解釈を入れないようにしてるんで、中立な立場で書いたつもりなんですけど、あたかも私が圧力をかけてるみたいに思われてる方もいて。例のアークライトの件を、いんちきジャーナリストがもみ消そうとしてる!って、話になってしまっているところはありますね。

――"ジャーナリスト"の肩書きから勘違いが生まれるっていうか、過度な期待を持つ人がいて、その裏返しのような気がしますね。まあ、すでに"ブラックジャーナリスト"的な扱いになってますが。

小野 それはありますよね。今回、自称してた"ジャーナリスト"が、読者のみなさんに認められてたってことに、まず驚きました。

――さっきの名乗り始めたきっかけの話にもあったように"ボードゲームジャーナリスト"って肩書き自体がある種のシャレじゃないですか。言ってみたら"ポケモン博士"を名乗ってるみたいなもんっていうか。

小野 まさにそれですね。

――自称"ポケモン博士"って人がいたとしても、博士号取得して学会で発表してるなんて、普通は思わない。でもそこが"ボードゲームジャーナリスト"だと誤解が生じやすいっていうか、ヘタしたら一部の人は通信社や新聞社に出入りしてるジャーナリストだと本気で思ってる節がありますよね。「ジャーナリストとしての小野さんへは失望しました。」って言ってる人がいたりとか。

小野 でも別にこれで食べてるわけじゃないんでね。でもそれだけ信頼してもらってるってことでもありますから、まあ、みなさんが期待してる内容になってないからでしょうけど。なぜ取材に行かないんだ!って怒ってる人がいたり。

――山形在住なのに(笑)。訴訟が起きたら、当事者たちはノーコメントになるのが普通だし、それこそ誰かが決定的な証拠を提示してくれない限り、なかなか取材する方も動けないのは当たり前のことなんですよね。今回の件なんか、なおさらやぶへび感が漂ってるわけじゃないですか。まあ個人的には、ずっと小野さんには叱られ続けてほしいので、あんまりフォローはしたくないんですけど。

小野 でも、私もなにもしてないかというとそうではなくて、関係者に聞いてまわってはいるんです。アークライトにもあゆ屋にも池田さんにも話は聞いてはいる。いろいろ取材してるんですけど、今は裁判が起こってるってことなので、掲載しようとすると「係争中につき、コメントできません」ってコメントになる。それは書いてもしょうがないと思っているので。

――えっ、本当に取材してるんですか。いや、それだけでも凄いですよ。このタイミングでそういうことに首を突っ込むのはそれなりのリスクが必要だし、ましてや、個人のツイッターの発言に対して訴訟を起こしてるような企業のまわりを取材するっていうのは、素人目に見てもかなりヤバイってことはわかるわけで。まあ、それを関係者として取材できちゃうからこそ、期待の裏返しで怒ってる人がいるんでしょうけど。

小野 でも情報を隠してるってことはぜんぜんなくて、訴状が池田さんのところに届くまでに2週間ほどかかるんで、とりあえずそれまではコメントできないっていうね。訴状を見てない状態だからなんとも言えないですからね。だから今は、訴状を受け取った池田さんの対応待ちの状態ですね。それこそ今、憶測で記事を書いたら、私が名誉毀損で訴えられますよ。

――たとえば週刊誌がそういった案件を記事にするのは訴えられるのを見込んだ上で、それに見合った売り上げを期待できるからで。出版社からGOサインが出て初めて動く。まあ、個人でそういうところと戦ってる人もいるっちゃいるんだろうけど、確実になんらかの後ろ盾は必要ですからね。趣味でやってるブログにそれを期待されてもね。資金援助してくれるっていうんなら別ですけど。

小野 だけど、その間でも決定的な事実が出たらニュースにしようと思ってますし、私も自分なりには動いてるんですよ。もちろん裁判がどう決着するのかもニュースにして終わろうと思ってますし。関係者どうしがいつまでも争いをしてるのはいろいろな面でマイナスに広がるので、取材って形で、関係者のお互いの溝が埋まっていければいいなって。

――体裁を捨ててまで、あんな訴訟を起こすってことは普通に考えるとそこに至るまでの込み入った事情があるはずだし。でも今回の一見は、今のところマイナスイメージしかないですよね。小野さんが叩かれてるとこまで含めて、端から見てる人には確実にボードゲーム界はヤバイ人が多いなって思われてますよ。別のジャンルでこんなことが起こったら、私も絶対そう思ってるはずだし。

小野 よくないのが、それらを不特定多数の人が目にしてるってことで。まあ私のサイトも、まさにそうなんですけど。

――世間はとりあえず面倒なことには関わりたくないってスタンスですからね。たとえばディズニーが権利関係にうるさくてキャラクターの名前を出すとヤバイ的な都市伝説ってあるじゃないですか。あれって実際はそんなでもないんだけど、みんな今でも信じて避けて通ってて、一般の人でも律儀に伏せ字にしてたりする。そんなふうに、もしものことを想定してマスコミのなかで腫れ物的な扱いになっちゃってる企業がいくつもある。一部の人権団体なんかもそうですよね。そういった意味で今回の件で距離を置く人が出てくるのは仕方ないことだろうし・・・。と、言いつつ私も今、アークライトの話をするのはちょっと怖いですからね。だいたいこのサイトなんてツッコミどころ満載だし。

小野 そういう一度付いた悪いイメージってなかなか拭えないし、ましてやこんな狭い世界だとなおさらですよね。

――小野さんのイメージもそうですよね。こうなったらいっそ肩書きを "ボードゲーム探偵"にしちゃったらどうですか。胡散臭さが増して誰も本気で怒ってこなくなるかも。でも「ボードゲーム強盗事件」や「ボードゲーム連続殺人事件」なんかが起こった日には・・・。

小野 なんで調べないんだ! 早く謎の究明を!って大変なことになりますよ(笑)。

――ははは。でも、なんだかよくわかんない、見方によってはある種、理不尽にも思えるようなことが関係者のあいだで起こってて、事実がわかんないから、みんなモヤモヤしちゃってるってのはなんとなくわかりますけどね。そのやり場のない怒りの矛先が、なぜか小野さんの方へ向かってるっていうのが現状ですよね。でも小野さんはネットで叩かれてても、あんまり気にならないタイプなんですか?

小野 ぜんぜん平気ですよ。もともと議論術とか論理学が専門なんでね。インドのですけど。そういった研究をしてたから。あんまり気にならないんですよね。ただ私信を無断で公開されたのは驚きましたけど。

――個人宛に送ったメールの内容を公開されるっていうね。たしかにあれはやり過ぎですよね。小野さんがめんどくさいことに巻き込まれてるってのは、個人的には最高だったんですけど。

小野 さすがにあの件は、私が陰で好き放題言ってるんだって感じになってるので、あゆ屋さんも含めて、そこで言及した人たちには謝罪しましたよ。

――そこでまたすぐに本人たちに謝れるその距離感が、なんか知ってて隠してるんじゃないかと不審に思う人が出てくるっていうか。まあ、私も怪しんでるんですけど(笑)。

小野 たぶん今後、この件に関してはどんなふうに私が取材を続けてもそこの部分は変わんないかもしれないですね。

――そういう世界観を持っちゃってる人は疑惑を持ち続けますよね。小野さんを窓口にして情報を得てる時点で見ようによっては小野さんと取材対象がグルに見えちゃうし。で、結局のところ"ジャーナリスト"は名乗り続けるんですか?

小野 そうですね。名乗り続けます。これだけアンチが出てきた以上、かえって燃えるっていうか。期待の裏返しっていうのもあると思うんですよ。マザーテレサも言ってるように愛の反対は憎しみではなくって無関心だっていうね。憎んでもらえるだけありがたい。

――ジャーナリスト冥利に尽きるっていうか。どんな意見が来てもそれはファンレターとして受け止めるってことで。

小野 まあ、うれしくはないけど(笑)。でも私の批判は差し引いて、読者がどういう思いを抱いてるのかをくみ取って、今後の取材に活かしたいと思ってますね。

――理不尽なことを言われてたりするわけじゃないですか。ネットのなかだと別の人格が存在して、なにかに取り憑かれたように怒ってくる人っているし。

小野 日本人は気にしやすいんですけど、意見を否定されるのは人格を否定されるのと違うっていうね。そこを日本人はうまく分けられないっていうのがあって。私は否定されてもその時期のある一部の考えが否定されてるだけであって、この人は私に関心を向けてくれてるなって思うようにしています。やっぱりいちばん嫌なのは無関心なことなので。

――わわっ、急に本物のお坊さんと話してるみたいになってきた。

小野 本物ですよ! まあ、自宅にカミソリの刃とか送られてきたら嫌ですけどね。ただボードゲームが好きな人は、会ってみたら大体いい人ばかりですからね。

――とにかく例の件については、もうちょっと待てと。

小野 もうしばらくしたら、確実に動きがありますからね。今は騒いでも仕方がないってことで。あくまで中立に、アークライトにも池田さんにも取材してますから待っててください。

後編へつづきます