序章
5月13日。産業会館前に現れた彼女は浅草の街にさえ似つかわしくない夜の雰囲気を漂わせていた。黒髪をアップでまとめ、前髪をカッチリと固めるヘアスタイル。渋谷や六本木のクラブでバッキバキに踊ってそうなお姉さん。彼女がぺこりとお辞儀をすると、肩に掛けた黒い上着のラメ素材が日光に反射してキラキラと光る。
そもそもなぜ観光客でごった返す日曜日の浅草に、夜の街が似合う彼女が呼び出されたのか。まずはそこから説明しよう。
「桜川マキシム」というポッドキャストで、大阪ゲームマーケットに行ってきた体験を話した回がボードゲーマーのあいだで話題になった。
「石を投げれば童貞に当たる」「ルール説明している人がルールに厳しく軍曹のようで怖い」などの発言がボードゲーム関係のブログに飛び火し、それを見た多くのボードゲーマーが激高。ツイッターには罵詈雑言が入り乱れ(大げさ)、まとめサイトが作られるほどの事態となった。
私もキレる気満々で聞いてみたのだが、怒るどころか共感を覚えた。数年前、はじめてゲームマーケットに訪れた際に自分も同じような感想を抱いたことを思い出したのだ。同時に、いつのまにかそういった感覚が麻痺してしまっていることにも気づかされた。
数年で私は狭い「ボードゲーム村」の住人になっていたのだ。
実際、私はポッドキャストで話題に出た「ゲームマーケット大阪」にも出向いている。たまたま関西で取材が入り、その足で閉会1時間前に会場にたどり着いた。
東京と比べて、若くてとてもおしゃれな人が多い。
これが初開催となった大阪ゲームマーケットを早足でまわった私の感想だ。その部分だけは、件のポッドキャストの内容に違和感を覚えた。さらに私はこう思った。
あれでダサかったら東京はどうなるんだ?
桜川マキシムの人に対して「モテ」のアイテムとしてのゲームを求めてゲームマーケットに来たことや、オタクに対する偏見みたいなものを抱いているのではないかという意見もあった。
たしかにここ最近は『ドミニオン』のヒットもあり、新しい層の人たちが続々と入ってきている。若干だが女性の来場者も増えた。だが自分も含めて、明らかにダサイオタクのおっさんが多い気がするのだが・・・。
しかし前出のとおり、私はすでに「村の住人」だ。村の外から公平な視点で見ることができない。
では今年の東京ゲームマーケットにホントに関係ない人が行ってみたらどうだろう。
石を投げれば童貞に当たるのか? 部室の臭いはするのか? やっぱりちょっと怖い人が多いのか? どのゲームをほしいと思うのか?
そんな疑問を検証するため、知り合いの伝手を頼ってぜんぜんゲームと関係ない女性をこうして浅草まで呼び出したのだ。彼女とは私も本日が初対面。つまり彼女がここにきた理由とは、私のくだらない疑問を解決するため、なのである。
初夏を思わせるギラギラした日差しに晒されて、明らかに不機嫌になりつつある彼女に、さっそく話を聞いてみることにしよう。
EXILEとダーツバーが好き
――では簡単な自己紹介をお願いします。
リコ「春川リコ、24歳です。モデルをやってます。好きなミュージシャンはEXILE。メンバーのなかでは(八木)将吉さんがいちばん好きですね。こないだコンサートにも行ってきました。あと最近はレディー・ガガも好きです」
――趣味なんかも教えてください。
リコ「趣味はお酒を飲むことと食べること。あとダーツが好きでよくダーツバーによく行きます」
――アニメを観たり、漫画を読んだりはしますか?
リコ「結構見ますよ。最近だと『ギャグマンガ日和』が好きですね。あと『GOLDEN EGGS』とか。面白いのが好きです。ゲームは昔はやってましたけど、いまはほとんどやらないですね。スマホでもやりません。今日ってゲームのイベントですよね?」
――ゲームはゲームでも、ボードゲームのイベントです。コミケのボードゲーム版みたいな感じですね。
リコ「えっ、そうなんですか。ずっと任天堂の3DSとかプレステ3なんかのイベントだと思ってました」
――ボードゲームで遊んだことは?
リコ「小学校の頃に人生ゲームをやったことがありますね。あと『モノポリー』を友達の家で何度か遊んだことがあります」
――それ以降は遊んでない?
リコ「あとは・・・、あっ、そうだ、渋谷にダーツができるダイニングバーがあってよく行くんですけど、そこにボードゲームが置いてあって、ダーツを予約しておいて時間を待ってるあいだ、ゲームをしてますね」
――どんなゲームをするんですか?
リコ「『ジェンガ』と、あとゴーストが出てくるゲームかな」
――『ガイスター』ってゲームかな?
リコ「ええーっと、ヒューゴのなんとかだっけ?」
――『ミッドナイトパーティ』?
リコ「そう! それそれ。面白くて、一時期、それだけやりに行ってたこともあります。3、4回連続で遊んで。もう2年くらい前ですけど。結構、女子会でも、男の子と飲みに行ったときもやりましたね。結構呑んでても遊べるし。ベロベロになっても遊べるのがいい。やばい、食べられるー! みたいな」
なんとなく彼女のことがわかったところで、簡単に今回の企画のルールを説明する。
- 自分で気になったところに行って興味のあるものを見て、好きなように楽しんでください。
- 質問は私に聞かずブースの方に自分で聞くようにしてください。
その2点だけを伝えて、ゲームマーケットのパンフレットを開き、簡単に会場の説明を開始する。今回から会場は3フロアになったことを伝えた。
「なにこれ。すごい広いじゃないですか。まわるの大変そうですね・・・」
と、あきらかにテンションが下がりつつある彼女と共にエレベーターでまずは大型ブースが集まる5階へと向かう。
「うわー、人が多い! じゃあ行ってきます!」
ここからはリコさんの行動をレポートしていく。果たして彼女は何を思うのか。